酔の花 ---2---


  数日前には、土方が様子を見るために客として来ていた。
  の化けっぷりに、盃を落としかねない様子だったが、君菊から習った舞いを披露してやるとこれが阿呆のように言葉まで出なくなってしまった。
 その後など、膳の料理を食べるのもどこかぎくしゃく、目をあわせようともしない顔の目元が酒のせいではなく染まっていたものだから、 のほうも、勝手に段取りを決められて千鶴を盾に取られた溜飲も少しは下がった。
 気分は、『ざまあみろ』だ。
 しかも土方との宴席の最中、是非近頃評判の芸妓に会いたいと別の座敷きからお呼びがかかったから、 は土方を置いてさっさとそちらの座敷へ行ってしまい、暫く戻らなかった。
 一通り舞いと挨拶をすませて戻ってきたときの土方の顔こそ見物だった。
 後で絶対お千に話さねばなるまい、暫く笑い話の種にできる事請け合いだ。
 意地の悪い笑みを浮かべながら土方の隣に座りなおす
 周囲には、護衛と内偵の補助として角屋に滞在している斎藤、藤堂、山崎もおり、『鬼の副長』のあまりにも気の毒な様子にそれぞれの溜め息をついていた。

「(これ、総司がいたら遠慮も何もなく笑い転げてるよなー……。 絶対、死ぬまで笑い話にされ続けると思う)」
「(同感です……)」

 すっかり挙動不審の土方、それとどことなくおかしい斎藤の様子を眺めながら、藤堂と山崎はさらに溜め息を重ねた。

 藤堂にしてみれば、土方の気持ちが痛いほどよくわかる。
 まさかこうまで化けるとは思わなかった所があるが、自分たち以外にそうそう懐くまいと思っていた猫が、あっさりと他の誰かに懐いたような微妙な心境だ。
 千鶴とは違い、何かあっても最低限身を守れるだけの力がある だから、酔っ払いに絡まれる程度では大丈夫だろうと思うが、千鶴の場合とは別の心配がある。
 最悪、作戦放棄しても構わないから、身の安全を優先するようにとの局長命令ではあるのだが、 は絶対に自分の身よりも作戦のほうを優先してしまうだろう。
 基本、芸者は身体を売らないし、遊女ときっちり商売の区別をつけるものだが、個人的な恋愛は許されている。
 そして は必要とあれば、必用な情報を持っていそうな浪士と個人的に閨にまで行くだろう。

「(……やべえよ、いくらなんでも……)」

 藤堂は、眉間に皺を寄せたまま手酌でついだ酒を啜った。
 この作戦の立案は土方だと言う。
 しかも を島原に送り込む時に、その身の心配よりも任務でヘマを踏むなと言ったと聞いて、さすがにあまりの言い様だと、遠回しに文句を言ってやったくらいだ。
 土方にしてみれば、使える手駒を有効に使っているつもりだろうが、藤堂にはどうしてもそう思えない。
 むしろ土方は、任務優先の の性格を理解した上で送り込んだのだろう。
 やっていいことと悪い事がある。
 よほどそう言ってやりたかったが、 いくら自分一人が嫌だと思っても 自身が納得して働いているなら止めようもない。
 一方、不満げな顔で酒を啜る藤堂の横顔を、隣に座った山崎は心配そうな顔でちらりと見た。
 それに気付いた藤堂は、パッと表情を明るくしてひらひらと片手を振る。

「だーいじょうぶだって、山崎君。 いくら何でも、 がネタ掴むまで自分から騒ぎ起こしたりしねえよ」
「はい、その点は信用してますが」
「ん? 何か別の点あるの?」

 膳の上の漬け物をひょいと口に放り込みながら、藤堂は首をかしげたが、山崎は内心でしまったと舌打ちをしていた。
 伊東派と薩摩のつながりを探れという今回の一件に藤堂を関わらせた土方の意思は、それぞれの役割で送り込まれた四人のうち、自分しか知らされていない。
 また、他言は仲間といえども一切無用との厳命だ。
 藤堂は、思想的に伊東に傾きかけている。
 まさか昔馴染みの自分たちを裏切るとも考えづらいが、今回の事に関わらせる事で、伊東に接触しつづけるのはやめておけと、それとなく分かってもらえればいい。
 鬼と評判の土方にしては遠回しすぎるくらいに遠回しな警告だが、悩んでいるのを知りながらはっきり口出しをするわけにもいかない立場上、そうするしかできなかったことは容易に察する事ができた。
 伊東が、表向きは幕府の傘下の立場を守りながら、裏では長州・土佐と組んで倒幕を企てるような薩摩の者たちとつながりを持とうとしている事実を知った時、藤堂がどう出るか。
 けれど、土方の思いを今、藤堂本人に言う事はできない。
 山崎は曖昧な笑みを浮かべて誤魔化し、話の鉾先を逸らした。

「いえ、これが沖田さんだったら面白そうだとか言って、騒ぎに油を注ぎそうな気がして」
「あははは、そりゃあ言えてるよ!」

 沖田をダシにしてしまったが、藤堂が上手く受けてくれたので、山崎もほっと表情を緩めた。

「あとさー、一君が綺麗な女に弱いんだって、俺初めて知った」
「ああ、あれは雪村君の時も同じような事になったから……」

 正確には、綺麗な女に弱いのではなくて、普段憎からず想っている女性たちが、美しく装っている様に、さらには彼女らの普段との落差にすっかりやられてしまっているのだろうと今ならわかる。
 物事に動じない性格で、剣の腕は隊でも一、二を争うといっても、こうも初な所を見てしまうと、可愛い所もあったものだと思ってしまう。
 現に今も、 に酌をしてもらいながら、頬を染めて目もあわせられない様子だ。

「(五条君も、あまり徹底しないでくれたほうが俺たちとしては安心なのだがなあ)」

 何となく首筋にピリピリとしたものを感じ、嫌な事が起こる前触れのようだと、山崎は盃を片手に自分の首筋をするりと撫でた。
 数日後、その予感は的中する事になる。









◇◇◇◇◇










 畳の上に転ばされつつも素早く膝立ちになり、豪華な打ち掛けを部屋の角へと脱ぎ捨る
 その が次の行動に出るよりも、天霧の踏み込みのほうが早かった。
 髪から頑丈な平打ちの簪を抜いて武器にしようとした の手首を掴んで、体格に任せて再び畳の上に押し倒す。
 勢い良く背中を打ちつけられる形になって、小さく呻いた の身体の上に半ばのしかかるようにして、動きを封じ込めてしまった。

「落ち着いて下さい。 事情を聞かせてもらいたいとはいえ、あまり手荒な真似をしたくはないのですから」
「どんな事情であれ、素直に吐くとでも思うのか」
「まさか本当に身売りをした訳ではありませんね?」
「……だとしたら?」

 身動きできない状況、しかもほとんど密着状態にありながら は気丈に睨み付けてくる。
 この相手は相手が自分より強いといえども容易に屈服しない、その意思を瞳の中に見た天霧は、無理に押さえつけるよりも説得したほうが得策だと判断した。

「そうだとしたら、友人の姉上を、花街に置いておく理由はありませんからな。 このまま、我々の元へお連れするまでですよ」

 新選組に愛想をつかしたというのなら、いつでも歓迎するという天霧の笑みにも、 の視線は険しくなるばかり。

「かといって、事情があるのなら聞かぬまま連れていくのも、返って手間を増やす事になるでしょう。 話して下さい、可能な範囲で構いませんから」

 言えるものか、と は内心で毒づいた。
 天霧は、薩摩藩の中でも一目置かれる立場にある者であることはすでに明白。そんな相手に、『新選組の不穏分子が薩摩と手を組みたがっているから裏を取りに来ているんだ』などと、どうして言えよう。
 絶対に、薩摩側を警戒させてしまうし、伊東を筆頭とする隊内の不穏な輩にもその警戒は伝わる。
 作戦は台無しだ。
 そうなったら、新選組は獅子身中の虫をより長く飼う事となり、その分、隊の内部を食われる事になるではないか。
 言えない。
 それくらいなら、かえってこっちが攫われるくらいの結果に終われば、土方ならすぐに新選組が不利にならない形で次の手を打つだろう事に賭けたほうがいい。
  のかたくなな態度に困ってしまったのは天霧のほうだ。
 このまま攫っていくことはもちろん可能だが、あちらで盛大に抵抗されることは必定。
 新選組に『ウチの隊士を返せ』とばかりに、喧嘩の理由を与えてしまうことになりかねない。
 弟や、彼女に憎からず思いを寄せている不知火は喜ぶだろうが、藩はそうは判断せず、厄介な相手なら新選組や会津と表面的には穏やかな関係を保つために、彼女を始末してしまうことを考えるだろう。
 それならば、こちらの手のうちを少しばかり明かす事で呼び水にならないかと、

「……私は、薩摩藩に新選組に関わりたがる先走った輩がいると聞いて、止めにきたのですが。 あなたは違うのですか?」
「……え?」

 とたん、 の表情が変わる。
 これでは内偵向きではないなと微笑ましささえ感じながらも、ようやくつかんだ糸口から、情報を手繰りよせるために言葉を重ねた。

「おや、違いましたか。 てっきり、そちらの方々もある程度の情報は掴んでいるものとばかり」
「ま、待った、ちょっと待った!」
「はい」
「え……何? そちらさんに新選組とつながりを持とうって輩がいる? ああでも今、薩摩って……」

 政の舞台では日々関係が複雑に絡み、変化しているものだ。
 蛤御門の時に幕府勢の一翼として闘った薩摩藩だが、今は薩摩は長州や土佐とも仲が良いはず。
 新選組は、土佐はまだともかく、薩摩とは険悪になってきているし、長州とはもとより相入れぬ間柄だ。

「こちらの話を聞いて、そちらの事情も話していただけますね? 互いの利こそあれ、損はないと思うのですが」
「わかった……」

 天霧は用心深く の手の中から簪を抜き取ると、ゆっくりと身体を離した。
  もまた、深く息を吸い込みながら肘を立てて身を起こす。

「名は伏せるが、新選組の中に薩摩藩を後ろ盾として分離を企てる者がいる。 薩摩藩が援助するとの約定をしめした証文を近くやり取りすると聞いて、その裏を取るために私はここに来ていた」
「やれやれ。 冗談であってくれれば良いと思っていたのですが、この分では本当でしたか」
「どういうこと?」
「私も、裏を取るのが目的でここに来ていたということですよ」

 天霧の説明によると、薩摩藩の中でも新選組と手を組もうという者が居るのだが、彼等はもう少し様子を見て折衝を重ねるべきだという上の判断を無視し、なるべく早く手を結んで事を急ぐべきだと主張し、協力の約定だけでも取付けてしまおうとしているのだという。
 急いては事を為損じる、と何度説明しても聞かないのなら、彼等の計画を事前に潰すしかない。

「伊東、といいましたか。 その者の人となりについて、もっと詳しく調べるべきだ、様子を見るべきだという意見が強いのですよ」
「……名前までしっかりと分かってるわけね、そちら様には」
「はい。 それと、彼に確実についてきそうな面々も数人から調べてあります」

 あんたの証言だけでも、新選組としては証拠として充分なんだがと は額を押さえた。

「私に証言能力はありませんよ。 詳しい事情は申せませんが、薩摩藩に関わりあるといっても政治的なものではありません」
「その割には、発言力はかなりの立場にありそうだって聞いているけれど?」

 軽く睨む の視線に、天霧は苦笑した。

「ところが、そうではないのです。 何といいましょうか、私の藩での立場は……一種の客人的なものです。 事、戦闘の面においてある程度の裁量を任されていますが、それだけです」

 それだけ、の者が、藩の立場を左右しかねない作戦をどうこうしてこいとの裏仕事を任されるはずがないと思っているが、天霧がこれ以上口を割るとも思えない。
 立場のない者から証言を得たとしても、証拠としての力は薄い。
 浪人と藩士、このどちらの言が証拠として重く取られるかというと、やはり藩士だ。
 薩摩浪人、と名乗る者から証言を得て、『これこれこういう事情で』と藩邸にかけあっても、『その者はすでに我が藩に関わり無いから、好きに処分してくれ』とトカゲの尻尾切りのように処分されてしまえばそれ以上の追求はできない。
 天霧ももしかすると、トカゲの尻尾のように何かがあれば切り捨てられる立場なのだ、ということだろう。

「伊東たちは新選組と思想的に反りが合わなくなり離脱を望んでいるが、例の隊規がある。 それに触れる事なく、また離脱したあとも一党をたちあげるにあたり、かつて新選組の内状を知っていた者として始末されないためにも、大きな後ろ盾を得てからでないと動けない」
「そこまで調べられた事に感心するべきか、こっちの内状ダダ漏れなのを恥じるべきか……」
「昨今、どこにも間者はいるでしょう? そういう経緯で薩摩の庇護を求めてきたわけですが、こちらの上のほうでは、その伊東とその周辺の者たちの人品をもうすこし見定めるべきだという意見が強いのです。 こちらも、下手なものを抱えて、諸方面から難くせ付けられる元にはしたくありませんからね」

 天霧の言い分はもっともだ。
 各藩の立場が、政治的にかなり不安定な時勢であることは、政に疎い にも十分わかっていた。
 それぞれに突かれて痛い腹の内もあるのだから、この時期に難くせを付けられるような材料を抱え込む事はかなりの不利を負う事になる。

「ああもう……恥かくついでに聞かせてほしいんだけれど、そちら様で伊東の評判というのはいかほどで?」
「論客としては優秀ですが、人間的な信用という点についてはまだ何とも」

  は頭を抱えたくなった。
 今の天霧の言からでも、味方として引き入れるか否かで人品をあちらに問われる程度には、伊東とその一派が新選組に隠れて薩摩藩と接触を重ねているということだ。
 その事実だけでも、報告すれば土方は躍り上がって喜びそうだが、証言したのが鬼の天霧、しかも証言能力的に一歩劣るのでは伊東と薩摩藩、両方に言い逃れをさせてしまう可能性が高い。
 どうしても、証言能力の高い者から証拠を引き出す必要があるということだ。

「ですが、大方の意見において、手を組まない方が良いという方向に固まりつつあります。 伊東を得るよりも、他の藩につけこまれるスキを作らない方を選んだわけですね。 なので、新選組内部で伊東の動きを押さえるなり、始末して下さるとこちらとしても非常に助かるわけです」
「……こちらとしても、『たとえ大幹部といえどもおかしな真似をすれば処断される』っていういい見せしめにはなるだろうね。 組全体が一枚岩じゃないと問題が色々と出て来る」
「そういうことなら、先ほども言いましたがどうです? 利害は一致していると思うのですが……」
「今の話、嘘じゃあないだろうね」
「はい」

 一時的にだが、手を組まないかと言う天霧の顔を、 はじっと見つめた。
 瞳を覗き込んでみても、嘘をついているようには思えない。
 もっとも、にわか仕込みで密偵の真似事をしている自分に内心を読み取らせるようなヘマはするまいが。
  は暫し考えたあと、天霧の話が本当なら、自分の判断だけでは手にあまると結論を出した。

「わかった。 私の他にも新選組の者が数名、ここに入り込んでいる。 彼等にも今の話を聞いてもらおう」






 そうして人に見られないように、天霧を新選組の者たちが控えている一室に案内した。
 やはりというか、何故ここに鬼が絡んでくるのだという態度で皆刀を抜きかけたが、そこは押さえてもらい、 は手短に天霧が宴席にいたのは目的あってのことで、その目的というのがこれこれこういう訳なのだと説明した。

「鬼と手を組むなんて」

 俺はまっぴら御免だと藤堂は吐き捨てるように言った。
 藤堂の心境を考えると も強くは言えない。何せ、池田屋討ち入りの時に藤堂に戦線離脱の重傷を負わせたのは他でも無い、天霧なのだから。
 その時の傷は、今も深く藤堂の額に残っている。

「だが、彼の持つ情報が本当だとすれば我々にとっては非常に有益です。 薩摩側にも有益というのが何ともいえませんが」

 山崎は難しい顔だ。
 心情的に、今まで何度も苦渋を舐めさせられている鬼と手を組むなど御免被りたいのだが、監察方の仕事を軽んじる訳にもいかない。
 ましてや今は、隊を二分しかねない獅子身内の虫を退治できるかどうかが賭かっている。

「伊東参謀が新選組に思想の面で害をもたらすというなら、証拠を押さえておくにこしたことはない。 手を組むのもやむなし、と俺は思う」

 斎藤は、天霧の言う事に偽りがないのならという条件において、手を組むのに反対ではないと主張した。
 不穏の芽は早いうちに摘んでおくに限る。
 三者の意見を聞いてから、天霧は に目を向けた。

「五条君はどうなのです? どう行動するにせよ、現場で一番の危ない橋を渡るのは君なのです。 君の意見を先ず聞いておきたい」

 それについてはもっともだ、と新選組の三人も頷いた。
  は少し考え、

「私には政治がどうの、思想がどうのという駆け引きは分からない。 ただ、伊東参謀のやり方は感心できないと思う」

 あれも根から悪い人ではないし、時勢によって節を変じるのも時には仕方のない事なのかもしれない。
 だが、一度は新選組の志に同調して入隊しておきながら、自分は傷付かずに離脱し、しかも労せずして自分の手ごまとなる隊士をつれて出ていこうというやりかたは、いかにもあざとすぎる。
 伊東が薩摩の後ろ盾を得ようとしているのなら、近藤と土方にもそれなりの札を与えて、いざというときに対等の席で言い合いをできるようにしておかないと、新選組は伊東に乗っ取られるか、隊士をごっそり持っていかれる形で離脱を許す事になりかねない。
 そのためには、言い方は悪いが、伊東の『弱味』を掴んでおく必要がある。
  はそう説明し、危ないには違いないが天霧と手を組みやってみる価値はある、もちろん手を組んだことを周囲には明かさないという条件で、と主張した。
 藤堂にはここは押さえてもらい、一時的に手を組む……という形で話がまとまったが、天霧が聞き捨てならぬことを口にした。
 何でも、薩摩藩でも問題の連中がここで宴を開き、新選組の者と接触しようという日付けと主催者もわかっているのだが、その主催者というのが。

「酒好きで女性にだらしなく、おまけに権力志向が強くて、志士たるもの芸者の一人も抱えておきたいと豪語する輩でして。君ではなくても、ひとりの女性の後見人として相応しい者ではありません ……そのような輩の前に、このような極上の餌をぶら下げたりしたら、どういう事になるやら」
「何だ、そんなことか。 なるようになるだろう。 それでさっさと片付くなら手を組んで片付けよう」

 問題ないと笑顔でひらひら手を振る に、男四人の視線が突き刺さる。

「そんなことじゃないだろ! 話を聞くだけでも、理屈が通じそうにない奴じゃねーか!!」
「藤堂君の言う通りです。 外面はいっぱしの志士を気取っていますが、人間としての品性に欠ける輩です。 今回新選組との交渉を積極的に進めているのも、自分が大きい仕事をしていて周囲に影響力を持っているのだという、一種の見栄を見せたい故の行動でしょうしね」

 怒鳴る藤堂の言葉を補う形で、天霧も頷いた。
 なるようになる、で済ませられる相手ではない。
 横で聞いていた斎藤も難しい顔になる。

「立場上だけでも味方のはずのあんたがそう断じるからには相当なものだな。 五条、そういう品性に加えて、酒に飲まれた男に理屈が通じると思わんほうが良い。 それに今のあんたは、男の目から見たら、その……」

 口ごもった斎藤は、いたたまれなくなりバツが悪そうに視線を外した。

「五条君。 仕事熱心なのは良いのですが、私もあまり思い切った真似はしないほうが良いと思います。 先程の宴席でも口説かれかかっていたではありませんか」
「なっ……」

 天霧の言う事に驚いて、山崎は と彼とを思わず見比べていた。

「こんな所で男に媚びを売るのを見て見ぬ振りをしたのが彼女の弟と不知火に知られたら、私といえども無事では済みませんので、思わず口を出させてもらいましたが……かなり、洒落にならない美女ぶりで」

 宴席に出ていた男たちの伸びた鼻の下、是非皆さんに見せて差し上げたかったものですと、せき払いをひとつする天霧。

「……手を組むにあたって、作戦の立てなおしが必用なようだな」

 山崎がそう提案するが、こういう場合こそ臨機応変に対応しなければならないので、それについては皆、否やはなかった。
 天霧の情報によると、明後日にここ角屋に例の輩が宴を張るという。
 一通り作戦を話し合い、その時を待つ事にした。




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