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数日後。
絵師風斎の名前で、『寸志』ということで荷車一杯の食糧と酒一樽がとどけられた。
山南が小判で礼金を貰っては『勝手に金策致すべからず〜』という項目に抵触するかもしれないので、礼をするなら食べ物でも届けて下さいと根回しをしておいたからだ。
菓子折りにならなかったのも、山南が新選組の台所事情を風斎に説明しておいたからだろう。
町人に武士(?)事情を包み隠さず話してそれを恥と取られないように相手に受け取らせるには、話の持っていきかたが上手でないととても無理だ。
その辺、さすが山南というあたりだろうが、
は玄関に届けられた食べ物と酒を前に大喜びの隊士たちの様子を遠巻きに眺め、何ともいえない表情をしていた。
酒だ米だ、干し魚だけじゃなくて塩づけの切り身もある、味噌に醤油に塩に昆布、小豆や大豆まである、すごいすごいと大騒ぎだ。
「どうしたんだこの騒ぎは。 山南さん、あんたか?」
「ああ、土方君」
荷物を持ってきてくれた風斎の使いから手紙を受け取っていた山南は、騒ぎを聞き付けて前庭に出てきた土方ににこやかに笑顔を返した。
「……寸志?」
「ええ、知り合いにちょっと人を紹介しましたら、喜んでくれまして。 何かお礼をしたいと言うので、金子では幹部自ら隊規に触れかねないので、こういう形にしてもらったんです」
「そうか、そりゃあ気をつかわせちまったな。 むしろこっちが礼を言いたいくれえだ、これで隊士どもを暫く食わせられる」
これだけの米がありゃあ、節約すれば次に会津からの金子が下るまで食いつなげると、土方も胸をなで下ろしていた。
「ん? その紙束は何だい、寸志の品の目録か何かか?」
「いいえ、これも一種の『気持ち』だそうで」
山南の手元にある紙束の表には、『当世美女洗髪小町之図』と題されている。
知り合いというのが島原の絵師なので、そういう人ならではの礼だと目を細める山南。
数日で手の込んだ錦絵は出来ないから、これは色決めをする前の構図取り、版下絵の段階だ。
絵師の版下から版木を掘って、色を乗せて何工程もの手順を踏んで始めて美麗な錦絵が出来上がる。
だがこうした版下絵も、錦絵が売れれば『あの作品の知られざる第一段階』として価値が跳ね上がるものだから、将来的な愉しみを貰ったようなものだ。
「新選組としても大いに助かりましたし、人助けにもなったようでまずはよかった」
「ああ、これまでの悪評もでかいから、細々した事でも人助けしていかねぇとなあ」
土方も結成当時の様々な事件を思いだしてか、苦笑を零す。
本当に、あの頃は苦労をしたものだ。
事は、約一名の微妙な心境を除いて大方丸くおさまった……と、思われた。
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